尾道。
どれほど行きたかったことか。
古い商店街を風となって歩けば、自転車の乙女たちがツバメの様に滑走してくる。
飛ぶツバメが鳴き声を発しないのと同じく、乙女たちの声は耳には届かない。
しかし心を澄ます必要もなく、若さが限りなく心に聞こえてくる。
旅人の、尾道という地名に対する感傷を見事に否定しながら、乙女たちは駆け抜ける。
見知らぬ店を選ぶ嗅覚に自信はなかったが、これは、と入った店は案に違わず安心し、落ち着くことが出来た。
老夫婦が営む店には、よく見かけるタレントとの写真が飾られている。
杯が進めば、問わず語りに会話が始まる。
聞けばご子息は公務員で、ご夫妻はそれを誇りにしている。
短い時間であったが、旅の者としての礼節を弁え、今夜の安宿に向かう。