この二日、会社の帰途、新橋から藤沢まで東海道線の50分間座れなかった。
今日は新橋から既に混んでいたが、運よく横浜で座ることが出来た。若造りをしていても58歳であれば座れることは有難い。
入れ替わりに横浜から乗ってきた人たちが僕の前の吊革に立った。
さて、真田太平記第11巻、大坂夏の陣のあたりを読み始め、ふと斜め右を見ると立っているのは小柄で華奢な女性であり、そのお顔は、これがまあアナタ、すっとしたお顔で、色気というのではなく、目許口許共に涼しく、どちらかというと中性的で、即座にギリシア神話のニンフを連想した。
そして視線を手許の真田太平記に戻す途中、あれ、と思った。
吾がニンフのお腹が微妙に出ているのだ。
確かめるため彼女のバッグを見ると、ありました、ピンクのマタニティーマーク。
吾がニンフは、まさにニンプであったのだ。
数舜ののち、ニンプちゃんに手指のしぐさとアイコンタクトで「代わってあげます、お掛けなさい」と伝え、ニンプちゃんは恥じらいを帯びたアルカイックスマイルで「え、いいんですか、ありがとう」と応えた。
この間互いに一語も発していないのだから、僕の周辺の乗客は急に席を入れ替わった妙な他人同士、と思ったことだろう。
善いことをした僕は(善い悪いは明らかに主観である)藤沢まで立つことも一向に気にならず、安らかな気持ちで大阪夏の陣に戻っていった。
今日の写真は今の僕の、明るい気分の現れ。
EOS 7D + EF24-105mm f/4L IS USM