星の文学者、 野尻抱影 (のじりほうえい、実弟は大仏次郎) の知られざる名著 『星三百六十五夜』 に、
更科の夫人から、 手紙と共に、 蛍袋の押し花が送られて来たくだりがある(7月4日の項)。
野尻抱影の、 いかにも明治人らしい硬質で博識な文体が続く中、 更科の夫人の手紙はそのまま引用
されているので、 そこだけ急に柔らかく、 かえって大和撫子を彷彿とさせる効果を生んでいる。
蛍袋の項も例に漏れず、 なんとも美しく、 辺りの景色、 空気感までもが目に浮かんでくる文章だ。
ここに全文を紹介する訳には行かないが、 皆さんも是非一度お読みになると良い。
この本の底本は「恒星社恒星閣」から出版され、 昭和53年には中公文庫から上下2巻に分かれて
発行されている。
前置きが長くなりすぎたが、 山野で見る蛍袋は、 うつむいてはにかむ少女のような風情がある。