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カテゴリ:里( 72 )


2017年 11月 09日

善い朝

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初夏、この田には青々と水が湛えられた。
盛夏、薄緑に金が混じったような、命の勢いそのものの色が一面を覆い、初秋にはその熟れ切った穂がかぐわしい香りを放ちながら黄金に波打った。
そして晩秋。
田は生産をやめ束の間の休息に入る。

晩秋には、田の方々から何かを焼く煙が立ち上る。
その匂いは、不思議と胸に染み込み、幼い頃のことなどを想い起させる。

さほど冷え込んだ訳ではなかったが、農夫によって作り出された煙は地上数メートルにある目に見えぬ逆転層に行く手を阻まれ、静かに、平らかに、広がっていった。




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眼を転じれば、こちらも晩秋ど真ん中の風情を醸す景色が広がる。
誰が取るでもなく、沢山の実をつけた柿。
土蔵の壁は、計算した訳でもないだろうに、見事な調和を見せて崩れかけている。
聴こえる音は、と耳をすませば、一切ない。
この土蔵は、これからきっと、何回も足を運ぶ僕のランドマークになるだろう。




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クルマに戻ろうと振り返ると、さっきの逆転層が気温の上昇に伴い均衡を失い、野焼きの煙が乱舞を始めていた。
なんという、善い朝だろう。


by libra-mikio | 2017-11-09 21:27 | | Comments(0)
2017年 07月 11日

里の愛らしい光景

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中央アルプスの麓の山村を走っていて、わざと小さな道に紛れ込んでみた。
細く折れ曲がる農道を、少しヒヤヒヤしながらゆっくり走っていると、こんなに可愛い庭(?)に出逢った。
家を一歩出たら草花が一面に咲いている・・・ものすごく贅沢なことだと思った。




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道端の、紫陽花越しに奥に拡がる田んぼと額紫陽花の対比に惹かれた。
濃い青と、稲のみずみずしい緑が、朴訥だけれど里の温かみを感じさせた。
この季節ならではの、ぽってりとした空気感も写すことが出来たつもりだ。




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少し坂を登ったところにある家の庭に、数本の向日葵が咲いていた。
何故となく、向日葵と、壁の白と、屋根の赤茶がとても可愛らしく感じられた。
こういう家に住んでみたいと、羨ましさを素直に感じた。


by libra-mikio | 2017-07-11 23:32 | | Comments(0)
2017年 06月 06日

夜の公衆電話

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信州から夜遅く湘南に帰る山道に、この公衆電話はあった。

先に言っておくが新しく発見した場所ではなく、明るい時間帯にここを通るたびに、夜の雰囲気を想像していた。
きっと妖しい。そう思っていた。

その通りだった。
雨でも降っていれば、その気配はいや増したろう。
でも、梅雨前の乾いた空気の中だったからこそ、撮ることが出来たのかもしれない。
だって、陰々滅々とした様子であれば僕自身が怖いもの。

僕は前からここを、谷内六郎の「夜の公衆電話」になぞらえていた。
皆さまその絵をご存知か?
雨の夜、太い枝を出す木の下に公衆電話がぽつんと光り、中で白いキツネが受話器を取って話し込んでいる。
その様子を見てしまった幼い姉と弟が、遠くに離れて不安げに寄り添っている。
見る人をなんとも言いようのない、切ないのか怖いのか判らない気分にさせる絵だ。
でもすごく惹かれる。

だいたい、今の世の中で公衆電話がいまだに設置されていること自体、妖しい。
これはやはり、スマホの登録がしにくいおキツネ様たちの通信手段として、NTTが敢えて残しているのだろう。
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by libra-mikio | 2017-06-06 21:58 | | Comments(0)
2017年 02月 19日

富士と梅

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一昨日は泥酔した。
泥酔する理由があった。しかし単に心が弱いのだろう。
昨日は何と昼近くの11時に起き、心の湯治のため丹沢山麓のPH10.1の中川温泉・信玄館で一日を過ごした。
今日は復活して6時半に目覚めた。
目覚めは好調で、カーテンを開けながら、今日は富士を背景にした梅が見たいと思った。






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私小説作家の尾崎一雄は下曽我に眠っている。
僕はこれまで何度かその墓を訪れた。
ずいぶん前に「美しい墓地からの眺め」という彼の小説に因み、ブログもアップしているが、今日もそこに行きたくなった。
その、尾崎一雄の墓から少し行くと、本当に富士が良く見える。
野生の梅が薄紅と青白い花をつけ、これが自然なんだよと、僕に語りかける。
野生の梅はいいな。
早春の、飾りも衒いもない、素のままの自然。






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富士を白雲に置き換えてみた。
国木田独歩の「丘の白雲」ではないが、雲もまた流れ去り時もまた流れ去る。

雲水と呼ばれる僧たちがいるな。
雲水。
何と侘び寂びて、なんと深い呼び名であろうか!

白雲と紅梅。
流れる雲の美しさと富士。
そして昨日の中川温泉に加え、今日は箱根・宮城野の温泉に日帰り湯治をして、僕は明日の月曜日も全力で生きるのだ。


by libra-mikio | 2017-02-19 20:19 | | Comments(0)
2017年 02月 18日

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道。みち。

僕は時折、道にすごくいとしさを感じる。
都会の大きな道路ではなく、隠れた鄙の、土地の人しか使わないような道に。






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道の起源をよく想う。
全ての道は、人々が通行するために開かれたのだろう。
初めはそれこそ獣が開拓したかもしれないが、そのうち人が使うようになったのだろう。
通行人の量が多ければ、それは大事な道ということになり、今の世で言う幹線道路になった。
一方、田舎の小さな道は、グローバルなニーズこそなかったが、ローカルでは大切なものとして扱われてきた。
その田舎の鄙びた道に、時々とてつもなく愛着を感じるのだ。たとえ初めて訪れたとしても。






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春まだ浅い里を歩く。
用水路でもあるであろう小川がある。
石垣が組んである。
電信柱がひとつ、ふたつ、と並んでいる。
そして梅が笑っている。
向こうからお爺さんでも歩いてこないかなぁ、と待っているのだが、一向に人の気配がない。
鄙である。


by libra-mikio | 2017-02-18 23:36 | | Comments(0)
2016年 05月 17日

美しい村での美しい話

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麻績村を出た僕は小諸を目指したが、ほどなく冠着(かむりき)に差し掛かった。
草湯温泉というノボリに惹かれ、湯に浸かるか、と立ち寄った。
冠着荘という。

名残の山桜が咲くその向こうには、ひなびた山里が見え、アルカリ性単純硫黄泉に身を委ねれば、なんとも頬が勝手に緩む。

その時だ。
アメリカ人と思しき30歳くらいの父親と、3歳くらいの女の子が湯に入ってきた。
この土地とどういう関係があるのかは知らないが、完全なよそ者という訳ではなさそうで、もう、旅の身空の僕としてはいろいろなストーリーが頭を駆け巡る。

その女の子がまた可愛いのだ!
ワォダディ、イッツホットと言いながら次には日本語で「きもちいいねぇ」などと舌足らずな声で喋るものだから、僕はもちろん、先に入っていたオジイたちもみ~んな優しく二人を見守る。
ダディもこちらに気を遣い「コンニチワ」などと礼儀正しい。

するうち二人は湯から上がる訳だが、なんとその時、ダディとお嬢ちゃんはごく自然に、洗い桶と椅子を、入り口に近い桶置き場に戻したのである!
きょうび、日本人だってなかなか行わない所作である。
日本人以上に和の作法をわきまえた親子!
ちょっと感動しちゃいました。
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by libra-mikio | 2016-05-17 21:58 | | Comments(0)
2016年 02月 11日

日暮れ梅

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三島の「春の雪」の主人公、松枝侯爵の嫡子、松枝清顕(まつがえきよあき)は気分がすぐに変わる。
今日の僕は、あたかも清顕になったかのようだった。

出掛ける前は大船のフラワーセンターに行こうと思っていたが、藤沢駅に初めに来たのが下りの熱海行き。
大船へ行くには上りに乗らねばならないが、そっか、熱海に行こう、と下りの電車に乗ってしまった。

熱海のどこに行こうかと考えているうち、国府津に来たら、曽我の梅林に行きたくなった。
飛び降りて御殿場線の下曽我へ。
結局今日の一日を曽我の里で過ごした。

今年の梅は遅いようだ。曽我の梅は至る所でせいぜい五分咲きだった。
しかし、吉田兼好も言っている。花は盛りに、月は隈なきをのみ、見るものかは。
(いつか僕はこのフレーズを清少納言と間違えてブログに書いたかもしれない(汗))

たくさん歩いた。
空気はまだ冷たいが、里のあちこちにほのかな梅の香があった。
梅林では流鏑馬が行われており人出も多かったが、里の奥に足を向ける人はほとんどいなかった。

夕方、この光景に出逢った。
里のはずれ、傾斜のきついミカン畑の端でこの梅を見つけた。
もうすぐ日が暮れる、そんな時の梅である。
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X-T1 + XF35mm F2R WR

by libra-mikio | 2016-02-11 22:38 | | Comments(0)
2015年 09月 26日

野づらの秋桜

野尻抱影の「星三百六十五夜」九月二十九日の稿に、「野づらの道」という文章がある。
何度読み返しても、無駄のない、しかし情緒に満ち溢れる文章は、僕の心に深く響く。
こういう文章を知っていると、旅の途中でも、得られる風景にふと「野づらの・・・」という僕なりの表現をしたくなることがある。

伊那谷を北上し、善知鳥(うとう)峠に差し掛かる手前、飯田線の信濃川島駅を西に入ると横川渓谷に通じる道がある。
横川の浸食によってできた開いた谷は明るく、田んぼには刈り入れ直前の実った稲の、黄金の香りが満ちていた。

そして、その田の中を通る道沿いに咲く秋桜に、僕は「野づらの・・・」と表現したくなる光景を見出した。
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どこにでもある風景かもしれないが、その時の風、温もり、光、匂いがこの地の秋桜を、僕にとっての「野づらの秋桜」に変えた。
信州の、秋の朝である。
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X-T1 + ZUIKO 35mm F2

by libra-mikio | 2015-09-26 21:00 | | Comments(0)
2015年 06月 30日

栗と空海

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今年は高野山開創1200年の式年である。
司馬先生の 「空海の風景」 は、 何度も書くが実に面白い本である。
長安の都は当時世界一の大都会であり、 紅毛碧眼のペルシア商人がいるは、 ネストリウス派のクリスチャンはいるは、 もちろん今で言う中国人はいるは、 そんな中で若き空海は、 同僚遣唐使の橘 逸勢(たちばなの はやなり)を誘い、 酒を飲み女性を愛でるのである。
青年僧空海が、 眼前に居るような錯覚を持つ。
日本人は空海をもっと知らねばならぬし、 空海を生んだ我が国、 民族をもっと誇りに思わねばならぬ。
「空海の風景」を未読の方は是非とも読むべし。




で、 なんで栗の写真かといえば、 これはもうこじつけで、 日本には多くの地域に栗と空海さんのむかし話が転がっているのである。
曰く、 栗を焼いて食べている童の前をひもじい僧が通りかかると、 哀れに思った童たちはお坊さんに焼き栗の大盤振る舞いをする。 感に堪えないお坊さんは残りの焼き栗を地中に埋める。 童たちは笑いながら 「焼いた栗から芽が出る筈がない」 というが、 あ~らフシギ、 翌年から栗の木が一斉に育つ・・・
曰く、 背の高い栗の木の実を苦労して取って食べていた童たちが旅の僧にその栗を施すと、 あ~らフシギ、 翌日栗の木の背丈が低くなっていた・・・
そう、 この旅のお坊さんはすべて空海さんなのである。 つまり空海さんと栗は切っても切れない縁なのだ。
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桃栗三年柿八年という言葉がいつできたのかは知らぬが、 桃や柿と並び栗も広く我が国の主要な果物として生産・消費されていたのだろうな。
少なくとも栗は空海さんの頃以前からあった訳で、 つまり1200年以上前から我が国の常識的な食べ物だった訳である。
ただ、 1200年というスパンがなかなか感じ得ないんだけどね。
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X-T1 + XF18-55mm F2.8-4.0 OIS

by libra-mikio | 2015-06-30 22:03 | | Comments(0)
2015年 04月 14日

姫踊子草

ヒメオドリコソウ。 姫踊子草。
彼女たちの名前を知ったのは大学1年生の時だった。
今でもボロボロになりながら手元にある山と渓谷社刊の 「野草ハンドブック・1 春の花」 で覚えた。

山渓というのは立派な出版社だ。 誠文堂新光社、 地人書館、  恒星社厚生閣もついでに立派な出版社であると言っておく。 
少年期の僕に、 これらの会社が出す本は多大な影響を及ぼした。
更についでに書くが、 文庫本のフォントにも好き嫌いがあり、 中学生の頃から僕は新潮文庫の文字のファンで、 角川文庫の文字にはなじめなかった。

閑話休題、 ヒメオドリコソウである。

僕は彼女たちを可愛いと思う。 街の娘のように垢抜けていないところがいい。 どうせ僕だって垢抜けていないのだから。
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Canon EOS 7D + EF100mm f/2.8L Macro IS USM

by libra-mikio | 2015-04-14 23:22 | | Comments(0)