旧制松本高等学校、現信州大学では、歌と言えば思誠寮寮歌「春寂寥(はるせきりょう)」である。
僕もたまに気分が高揚すると、歌う。
春寂寥の洛陽に 昔を偲ぶ唐人の
痛める心 今日は我
小さき胸に懐きつつ 木の花蔭にさすらへば
あはれ悲し逝く春の
一片毎に 落る涙
(作詞:吉田 実(1乙文)、作曲:濱 徳太郎(4理乙)、大正9年)
歌詞もそうだが、その旋律が大正浪漫を具現してまたもの悲しい。
今回、松本は県(あがた)の森にある旧松高校舎(現・旧制高等学校記念館)に寄った際、作曲者である濱氏の遺した文章を読んだ。
『・・・春寂寥は歌詞もはじめから濡れに濡れているものだったので、できあがった曲としてはもはや白い煙さえ立たず、なんとも手のつけられないほど感傷的なものになってしまった。それで作詞者の吉田実君(1乙文)は、発表後、撤回したいという意向をしばしば持ち出したが、寮生の諸君になだめすかされて泣き寝入りになってしまった。・・・』
なるほど。
春寂寥は、当時から余りにも浪漫的と感じられていたのだ。
しかし僕は、この歌を歌えることを誇りに思っている。
旧松高校舎にて。